8月9日、晴天。
氷のれんが涼しく揺れる夏のアトリア参宮橋で、MEthos第二期の修了式が行われました。
What About MEthos?
MEthos(ミトス)は、自分の理念と生まれ持った才能を深く理解し、それらを日々の行動や仕事と一致させていくことで、「本来の自分を生きる」ことを実践的に学ぶプログラムです。
MEthos第二期には、7名の受講生が参加しました。
二か月間、毎週行われたオンラインでのプログラムを経て、この日がその最終ワークとなります。
最終ワークは、受講生が自ら掲げた個人理念とビジョンの発表です。
集合時刻の15分以上も前から、全員が揃います。
日曜日の夕方、定刻通りに会は始まりました。
時間通りに会が始まること。
ごく当たり前のことのように思えるかもしれませんが、そこには、この社会を生きる私たちひとりひとりの努力があることを改めて感じずにはいられません。
なぜなら、自分の願いとつながりながらも社会とつながり続けるには、相応の力、“丹力”とでも呼ぶべきものを求められるからです。
MEthosでは、自分の心からの願いにつながり、その裸のような本心を見つめ直すというワークを行ってきました。その過程では、これまでの人生の中にあった不本意なできごとや、残念だった景色と向き合うことも自然と起こります。
過去の辛さや痛みを思い返すこともある。
ましてやこの日は、自分の心からの願いである理念とビジョンを、人前で発表する日です。
みなさんのどこか緊張した表情も、それを物語っているようでした。
「自分の中の悪い感情に出会ってきました(笑)」
「実は今日、来るかどうか迷うくらい少し調子が悪いです」
冗談めかして語られる言葉のどれもが本物であることは、お互いによく分かる。
そんな空気がありました。
ふと誰かが言います。
「時間通りに集まるなんて、さすがですね」
会場の全員が思わず笑いました。
――私たちが社会の中で当たり前のようにしていることが、実はどれほど尊いことか。
――そのために、それぞれが本当は静かにどれだけ頑張っているか。
――言葉にこそしないけれど、皆、改めてそれを感じている。
そんな意思疎通の言葉のように、私には感じられました。
自分の心につながることは、必ずしも自分の世界に閉じ籠ることではないのかもしれません。
自分に根ざすことで、改めて自分自身の存在を感じ直す。
自分に触れることで、改めて他者の存在にも気づいていく。
自分を大切にすることと、隣人を大切に想い、社会の中で生きていくこと。
それらが切り離されたものではないことを、あの笑い声の中で共有したように思います。
ひとりずつスクリーンの前に立ち、ご自身の大事にしたい願いを「理念」という言葉で、そしてその言葉の裏に内包された風景を「ビジョン」というイメージで発表していきます。
ご本人にしか分かりえない世界観と、その心からの願い。
一人ひとりの言葉が語られます。
「イメージはあえてごちゃごちゃさせました。整然としていることが僕にとっての心地よさにはつながらないと気づいたんです。
このごちゃごちゃと色々なものがあることが僕にとっての“自由な姿”でした」
「料理に“お椀物”ってありますよね。私は一杯のお椀物の料理のように、丁寧な仕事にひとつひとつ向き合いたい」
「僕にとっての貢献は、人を前から引っ張る姿よりも後ろから支える姿。人を支えるこの姿が僕の“自分軸”なんです」
「私にとって“健やか”であることは大切です。でも大切だからこそ、そのワードに引っ張られて自分を苦しめそうな気がして。だから代わりに、“ありのままに”というワードを選びました。
これなら私は、私と一緒にいられるから」
そこには、誰かが用意した正解ではない、その人自身の像が浮かび上がります。
隠しようがなく、誰にも真似のできない、その人自身が滲みだす瞬間でした。
その発表を受けて、聞き手も応えます。
付箋に感想や、聞いていて思ったことを書いて、声とともに発表者本人へ返すのです。
「いつも元気よくお話される方だと思っていましたが、今日はむしろ淡々とお話されていて、そこに真摯さを感じました。きっと本物なんだろうなって」
「“静けさ”というワード。そこに聖域がある気がしました」
「ご本人はイメージが弱くて不安だと仰っていましたが、私はかなり明確で強い世界観を受け取っているということをお伝えしておきますね」
「話しているときのボディランゲージ、特に手の形に暖かみがありました」
「あ、私もそれ感じていました!」
発表者はフィードバックされたことを受けて、改めて自身の感覚を言葉にします。
「確かにいつもと話し方が違う自分を感じています。自分のことに真剣になったときの話し方ってこうなるのかって、自分でも驚く発見です」
「なんだか既に、この理念とビジョン、そしてMEthosでの空気感が私の生活に影響を与えています。まだ違和感として受け取っている部分を現実に落とし込んでいきたい」
「本当に大事な言葉を理念にしました。修了式だしバチっと格好よく決めたかったけど、そうもいかなかった。大事だからこそ今も迷っています。
でもこの感覚も“今日”の姿として、大事に育てたい思いになっています」
見守り役として場に参加していたMEthos第一期修了生たちも、声を届けます。
「僕がここに来て意味があるのかと迷ったけれど、来てよかった。自分が受講したときは自分のことでいっぱいだった。でも今日、初対面の人なのに、その人のことがぐんぐん伝わってきて、エネルギーをもらえました」
「自分が願っていた願いを改めて持ち直せたと言いましょうか。私自身の修了式があったあの日からどれくらい、何が変わったのか、何ができたのか。
いま胸の中で振り返っています」
修了式を経て、懇親会へと場は流れます。
話し声の中から、発表が終わった安堵と、それから“理念を発表してしまった”という不安が、どこからともなく聞こえてきます。
願いは、願ったら叶うものではありません。
理念という心からの願いを持つことは、同時に、それをこれからどう生きていくのかという問いを持つことでもあるのでしょう。
そんな問いとともに歩んでいくために、MEthosではプログラム修了後も、その理念とビジョンを具現化していくためのしくみが用意されています。
過去の修了生による見守り参加も、そのひとつです。
修了したその日を完成とするのではなく、心からの願いを現実の暮らしや仕事の中で生きようとする人たちが、その後も互いの歩みを見守り合っていく。
そんな環境もまた、MEthosという場の一部なのだと思います。
日常は続きます。
仕事も、生活も、否応なく続いていきます。
本来の自分に出会い直し、その才能と自分の理念を掲げる。
毎日の行動や仕事と一致させながら、「本来の自分を生きる」ことを実践していく。
修了式は、そのひとつの節目にすぎないのかもしれません。
すっかり暗くなった日曜日の夕べ。
それぞれの理念を胸に、月曜日の朝に向けて、ひとり、またひとりと新しい帰路についていくのでした。




